ハノイの騎士の魅力

 

 毎週欠かさず『遊戯王VRAINS』をみているのだが、この作品はあんまり好きではない。主人公陣営のキャラ達にあまり魅力が感じられないし、ストーリーも微妙な気がしてならないからである。

 では、なぜ見続けているかというとそれは悪役であるハノイの騎士が大好きだからだ。

 

 ハノイの騎士とは、いずれ人類を滅ぼすと推測される『イグニス』と呼ばれるAIの殲滅を目的としたハッカー集団である。

 これだけ読むと「あれ、どこが悪いやつらなの?いいやつらじゃん!」と思えるだろうが、とる手段が電磁パルスを世界中に拡散し、イグニスの逃げ場となりえるもの、つまり電子機器のすべてを破壊しようというあまりに過激なものなのだ。しかも、イグニスが人類が滅ぼすという推測はこいつらが勝手に導きだしたデータであるうえに、そもそもイグニスを生み出したのはハノイの騎士の創設者である鴻上博士なのである。

 

 なぜこのハノイの騎士が魅力的なのかというと、上に挙げた鴻上博士とその息子リボルバーが実に素晴らしいキャラクターだからだ。

 鴻上博士は簡単に言うと、自分を悪だと気づかず進み続ける狂人である。

いずれ人類は滅んだ時に文明を受け継いでくれる感情をもったAI『イグニス』を作ろうと思いいたるまでは良いのだが、そこでとる手段が少年少女を拉致監禁し、彼らを食事制限や電撃によって追い込みながらAIとデュエルさせる(なぜデュエル?というのは遊戯王アニメゆえ仕方なし)といったもので明らかにおかしい。その結果、少年少女たちの大半は廃人になるなど問題を抱えてしまうのだが全く悪びれず、作ったのは失敗だ!世界中の電子機器ごと滅ぼす!と言い出すのだから狂人というほかない。

 これぐらいの悪役ならざらにいるが鴻上博士の最も厄介なのは、息子にすべての計画を託し自分を正義だと信じて死んでしまうことである。『遊戯王VRAINS』は、実験台にされ心に傷を負い復讐に動く主人公たち、父の意思を継ぎイグニスを滅ぼそうとするリボルバーたち、必死に生き延びようとするイグニスたちの戦いの話なのだが、そのすべての原因や恨みの大本にもかかわらず鴻上博士は満足して死んでしまうのだ。これが悪役として凄く魅力的で、作品全体にやり場のない複雑な感情を生み出している。

 息子であるリボルバーは、そんな父の遺志を継いで戦うキャラクターだ。リボルバーの魅力は何といっても戦い続けるながら悩むことである。父親と違い彼は悪人ではない。リボルバー自身は、鴻上博士が狂人で多くの爪痕を残した人物だと知っているのだ。それでもハノイの騎士として戦う。拉致監禁事件を自分が通報したことで父が死ぬことになってしまった後ろめたさ、狂人だとわかっていながら父親へ抱く愛情、それらによってハノイの騎士としての罪を背負い、事件の被害者たちに出会い悩みながらもイグニスの脅威を除き人類を救おうと戦い続けるのが、悪役のみとしてでなくヒーローとして彼の魅力になっている。

 

 遊戯王VRAINSは手放しでほめられる作品だとは思わないが、一見の余地があると思うので見てほしい。